第5回 高等教育の進展は中国をどう変えているか

文献 園田茂人・新保敦子『教育は不平等を克服できるか』岩波書店、2010年

本書の構成

  • 1~3章:中国近代以降の政治変化に伴う教育制度の変化を時系列に沿って概説
  • 4~6章:改革開放以降の教育に伴って発生した諸現象の解説・分析

全ての章において、論じられる二つの軸:「国民創出」と「エリート育成」

章毎の要約

  • 1章:学歴社会への前奏曲…科挙の伝統:ハイリクスハイリターン・エリート育成偏重
  • 2章:教育の大衆化という夢…民国期:公立…エリート育成・都市偏重;大衆教育は自助
              →都市農村格差の深刻化
  • 3章:格差なき教育を求めて…人民共和国成立後
   「国民創出」:初等・中等教育の拡充;文字改革・言語統一
   「エリート育成」:重点校制度
  二者の「红」と「专」の対立
  →文化大革命期:「红」の勝利…初等中等教育普及;高等教育の破壊
  →改革開放:先富論…高等教育復活;社会主義建設人材→市場経済に応じた人材育成
  • 4章:学歴社会の誕生…科挙の伝統;文革のコンプレックス;能力主義
  • 5章:海帰・海待…私費留学;国内外での人材獲得競争;経済格差・学歴競争の激化
  • 6章:改革開放の三〇年…地域間格差;グローバル化による民族・イデオロギー教育の変容

※「学歴社会」:学歴=所得の関係が強い社会、という定義で良いか?

論点

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(1)留学組・エリートが中国社会に与えていく影響:格差、体制etc…[20min.]

  • 黄グループ
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 ・政治:留学組は変化を与えないのでは。
     エリート層には今の仕組みが有利だから、変えるインセンティブが無い
 ・経済:国力増大への貢献。優れた技術を中国に持ってくる。
     経済発展を促す点で影響は大きいのでは。産業構造の変化につながる。外資の参入など。
 ・社会:市と農村の格差につながる

  • 青グループ
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 ・経済:留学で知的な技能が得られる
     留学からの帰国組に対し、雇用創出の要請が高まる。
     産業構造の変化に繋がるのでは。第三次産業に移行する。
 ・文化:アメリカ流の「ボトムアップ」を中国に持ちこむことへの疑問。
     中国の考え方にマッチしないのではないか。

  • ピンクグループ
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 ・政治:他の国からイデオロギーの流入。直接民主制が起こるかも。
     共産党のリベラル化が進むのでは。
 ・社会:頭脳流出が起こる。お金のある人しか留学できない。
     格差の再生産が起こる。とりあえず留学する人の増加。
 ・経済:留学生ネットワークを基盤に海外企業が進出しやすくなる。
     企業の環境、CRS意識が向上するのではないか。

  • 緑グループ
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 ・経済:先端知識をもたらす。ITや金融システムなど。
     中国の改革開放路線の促進につながるのでは。
 ・政治:留学組による海外文化の流入の影響。POPカルチャーなど。自由主義的な気風。
     文化に接する機会の増加。文化規制に反発が起こる。
 ・経済:留学組ネットワークによる海外企業の進出。
     学問面では論文の共著が増える。

(2)大衆教育における内容の変遷(民族・政治イデオロギーの薄れ←市場経済化)が人々の意識に与えている変化[20min.]

  • 緑グループ
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 ・肥満 ・能力主義的 ・エリート教育への転換 ・グローバル
 ・大衆化 ・都市思考 ・教育へのお金をかける意識 ・愛国心的イデオロギー
 ・実技主義の学問 ・公立学校の学費が高い

  • ピンクグループ
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 ・教育によって海外の情報に対するリテラシーが上がる。世界の中の中国としての意識。
 ・大衆教育:標準化が進んで、少数民族への風当たりが強くなる。
 ・教育の内容:成功するために教育を受ける。拝金主義とかに繋がる。
 ・教育の格差:農村の人が都市の教育に憧れる。
        教育を受ける人の中でも、教育の質の格差。
 ・就活の判断基準が学歴だけじゃなくなる。結局コネが基準に?
 ・努力が報われないことへの不満が、政府への不信につながる。

  • 青グループ
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 ・価値観の多様化:英語教育によるアメリカ文化の流入。価値観の相対化が進む。
 ・個人主義、能力主義的な考え方が増える。
 ・識字率の上昇:ナショナリズムの高揚につながるのでは。
         一方で、いろんな本が読めるようになるため、共産党への帰属意識が揺らぐのでは。
         「国家」意識の強まりと「共産党」離れが起こる。
 ・メディアとの関わり:海外からの影響。メディアにアクセスがしやすくなる。民主化に影響する。

  • 黄グループ
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 ・そもそも大衆教育は人々の意識に影響を与えるのか?
  大衆教育が変化しても、内容をコントロールするのは共産党。
  共産党のイデオロギーに即した教育が行われるのでは。
 ・資本主義的価値観の普及:マルクス主義的な考えの薄れ。資本主義は拡大。
              競争と格差も拡大していくのでは。
 ・歴史教育:客観的になったとはいっても、愛国心などは変わらないのでは。
 ・中国において教育レベルが向上。学生は海外志向を強めるかも。
  農村部においても上層志向の強まり。
  結果として、農村の人々が農業に従事しなくなるのでは。
 ・過度な受験競争が、子供達の心身の成長に悪影響を及ぼす

(3)中国社会の諸格差に10年後教育が与えていく変容[40min]

  • 政治
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 ・エリート層を吸収するようなジョブマーケットがない。
  彼らが共産党に対して抵抗するような動きを見せた場合、教育を変えて行く指導者になるのではないか。

 ・大衆教育がなされると、メディアへのアクセスが増える。
  自由な意見を持つようになって、下からの民主化の土壌が出来るのではないか。
  エリート層が外から革新的なアイデアを持ってきた時、両者がうまくマッチングするのでは?

 ・留学に行った人が「格差を変えたい」と思っても、古い世代の力がまだ強い。
  そのため、上の世代によるコントロールは続くのでは。
  上記と含め、両面がありそう。

  • 経済
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 ・高等教育の発展は産業構造の変化につながるのでは。
  留学生ネットワークによって留学へのリスクも減る。
  新たなビジネスチャンスが産業を広げるのでは。

 ・高い質の教育は必ずしも普及していない。
  第二次産業は今後どうなっていくか。単純なマンパワーは減少する。
  人の質が上がらなければ、外資は流出するのでは。第二次産業の衰退に。
  第三次産業の国内需要が増えないことには意味がない。「パイを増やす」ことが重要に。

  • 価値観
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 ・愛国心と反日感情。
  若い世代は文化の影響を受けており、学校教育の反日感情と区別している。
  反日意識は薄れているのでは。

 ・学歴・格差と社会の関係
  学歴競争が格差を助長・固定している。
  「競争に負けているから仕方ない」という価値観が生まれる。
  学歴社会に疲れた人々の増加。経済が発展したら「ゆとり」教育化する可能性。
  そのうち、価値観の多様化につながっていくのかも。

 ・今は能力主義的なのが格差を産んでることへの批判が少ない。
  そのうち、競争に負けた人からフリーターやニートなどが増えて社会不安に。
  これらの一般市民への影響が、教育の構造を変えうるのでは。
  教育の勝ち組でも、社会的メリットを受けられない人たちも。
  負け組と勝ち組、双方からの不満が出てくるのではないか。

質疑応答

Q.産業構造の変化は、どのようなものを想定してるか?
A.中国国内ではボトムアップは厳しい。トップダウン型で行っていくのでは。規制緩和など。

Q.人件費が高くなると外資が逃げる。その中で必然的に産業構造の変化を強いられるはず。この一連の流れはトップダウンと呼べないのでは。
A.その変化を牽引するのは政府であるのでは。今の経済は、ボトムアップでやっていく土壌が無いのでは。
Q.フォーカスメディアのようなベンチャー企業の登場はボトムアップ型では?
A.これまでの国営企業の独占・寡占が解体すれば可能性も広がる。
A.第三次産業は中国ではすきま産業だ。下からの産業構造の変化もまだ可能性があるのでは?

Q.中国が第三次産業に移行するにつれ、格差はどうなると考えるか?
A.議論はしていない。

まとめ・その他

準備中。入手した中国の大学入試問題などを載せる予定。

  • 最終更新:2012-05-11 16:32:51

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